「Agapanthus」の涙

2020年11月14日と15日。
麻倉もも Live 2020 "Agapanthus" が開催された。



1日目の1曲目の「Agapanthus」。

麻倉ももさんの2年ぶりのライブが始まった。
布のシースルースクリーンを使った立体的な映像演出のあまりの美麗さに度肝を抜かれた。まるで「Agapanthus」のMVの世界がそのままそこに存在しているかのようだった。というより本当に存在していた。

あまりの美しさに、「とんでもないライブが始まってしまった」と唖然としていると、麻倉ももさんの歌声に異変があった。

涙。
いつも完璧にパフォーマンスをこなそうとする麻倉さんに、歌えなくなるほどの感情の揺れがあった。麻倉さんにこれまで見たことがないような感情の渦が感じ取れた。

中止になってしまったライブツアー。
変わってしまった日常。
そして、世の中が神経質で暗鬱とした、特殊な状況下での2年ぶりのソロライブ。

ライブツアーの中止で、1度準備したことがなくなってしまった。そして今回も、無事に開催できるかわからないライブだったし、相変わらず世の中は暗鬱としている。先の見えない中で準備してきた時間を思うと胸が痛くなった。

「頑張れ、大丈夫だよ」と念じながらももブレードを振った。目頭が熱くなった。こういう感覚になったのは3年前、リリイベの「No Distance」で麻倉さんが歌に詰まったとき以来だった。状況は今と違ったけれど。それ以降は頼もしさすらあって、パフォーマンス中に「頑張れ頑張れ、大丈夫だよ」と応援することはなくなっていた。


「Agapanthus」の涙の理由は、
「今の状況で、来られなくなってしまった人もたくさんいるんじゃないかな」
と不安があった中、ほとんど欠けのない客席とブレードの光を見て不安の糸がほぐれたからだと語った。2日目の言葉も借りれば、今まで経験したことのない状況下でのライブで、眠れないほど不安だったと。

この涙は、ファン、スタッフと共に作り上げるソロライブが、麻倉さんにとってどれほど大切なものか伝えてくれた。



麻倉さんは、自ら望んでアーティストになったわけじゃない。アーティストとしてやりたいことがないままデビューして、暗中模索しながら進んできた。今では「恋の歌」という軸を見つけて、さらには『僕だけに見える星』や今回のライブのように彼女のその時々の感情、考えを歌に乗せられるようになった。

「恋の歌」に至るまで、ずっと大切にしてきたのが「ファンとのキャッチボール」だ。この言葉は、アーティストデビューから間もない頃、アーティストとしてのビジョンがなかった頃のインタビューでも語られている。今回のライブを見たらすぐわかると思うが、今でも大切にしている軸だ。

「皆さんが応援してくださるから歌い続けたいという原点は変わらないですね。むしろ、その原点はこれからもずっと変わらないと思います。私が歌うことで、皆さんが大きな声援を返してくださって、それが嬉しいからまた私も何かお返ししたくなるという、素敵なキャッチボールができる活動なので、その相乗効果を楽しみにしながら活動していきたいです。」
麻倉ももフォトブック もちょあつめ、学研プラス(2017/6/27)より


恋の歌「Agapanthus」とそれを彩る美しい世界。
愛の花に囲まれた麻倉ももが、世界中の光を受け取って暖かい涙を流す。

この光景はまさしく麻倉もものアーティスト活動そのものだった。



今、気持ちのキャッチボールはなかなかしづらい状況になってしまった。でも、声も言葉も伝えられなくても、表情が見えづらくても、ただ好きだって思いや、楽しいって気持ちは伝えられるんだと思った。
伝えようとする意思と、受け取ろうとする意思で紡いでいける。

僕にとって麻倉ももさんのライブはとても大切な場所だ。そんなライブの景色が、僕自身も作っているこの景色が、彼女の力にもなっていることが感じられて、心が満たされるような気がした。


綺麗な景色だった。
本当に楽しい時間だった。
最高に幸せで楽しい時間だった。

ありがとう。